【★1】映画「64」はとんでもなく大風呂敷を広げて全く畳まない、もはやギャグ映画!【感想】

2016/06/13

★1 映画ドラマ批評

いやー、ひさびさにブログ更新なんですけども。
もうね、これは更新せざるを得ないと。とんでもなくモチベーションを突き上げてくれる映画でしたよ、えぇ。

ほし:★☆☆☆☆(1/6)
寸評:14年前に発生した未解決誘拐事件にまつわる重厚なストーリー、もつれる警察・記者クラブ間の関係、さらに警察組織内での派閥争いや確執……など様々な要素が絡みつく。複雑な背景を描くため前後編に分けられ、さらに美麗な映像演出が加わり、いやが上にも観ている側の期待は増しましていく展開の、今世紀最高のギャグ・エンタテインメント。僕は映画館で、かつてこれほどまでに笑いをこらえることができない作品に出会った事はない。

以下、多分にネタバレを含みます。




■前編
まぁ色々とこの後語るんだけど、とりあえず「前編にたくさん伏線がちりばめられつつ、ストーリー展開がすっごい面白かった」という事を語ろうと思うんだよ。そうでないと、いかに後編がギャグ大作かどうか伝わらないからね。

主演、佐藤浩市ね。これが実に渋い、苦み走った表情をみせるいい役者。
佐藤浩市演じる三上は、昭和64年1月5日に発生した少女誘拐事件を担当した刑事。しかし犯人にうまいことやられて警察は金は取られて犯人に逃げられ、少女は殺される。
またそこに、警察側の失態も重なる。身代金要求の電話の録音がうまくいかず、犯人の声の録音に失敗していたというかなりの失態だ。そして警察は、事実を隠蔽する。
その失敗が外部に漏れることを恐れた警察は、世間が天皇崩御のニュースによって誘拐事件が忘れられつつあることを良い事に手がかりのない誘拐事件の時効が訪れるのをただただ待つことになる。
いつしか、この未解決誘拐事件は昭和64年の発生年から取って「64(ロクヨン)」と呼ばれることになる。

時は流れて平成14年。時効一年前。
三上は刑事を外され、閑職とされる県警広報官として働いていた。簡単にいうと、警察署に常駐する記者クラブの相手をする係。
(捜査一課をあげての誘拐対応であったにも関わらず、なぜ三上だけが閑職に追いやられているのかは語られないので理由は不明)
あるひき逃げ事件の加害者の実名を記者に発表するかしないかという問題で広報は大いに揺れる。
実際のところ、ひき逃げ事件の加害者が警察関係者の娘であったために発表差し控えるべしとの上からの通達なのだがそれを正直に言うわけにもいかず、記者クラブ側はその事実は知らないまでも「大義名分を得たり」と対警察で立場を強めるため強烈に実名公開を迫る。
あまりに居丈高な、無礼な態度を繰り返す記者クラブ。その幹事社、東洋新聞の記者である秋山(瑛太)は、その急先鋒として抗議文を本部長に提出すると散々に脅す。広報の署内での立場をより弱め、記者側の要求をより容易に通すための記者クラブ側の独善的かつ利己的な行動。広報官は忸怩たる思いを募らせる(そして当然視聴者側も主人公側の視点で物語を見るため、記者クラブの目に余る傲慢さには舌打ちが止まらない。何も手を出せない広報官たちの右往左往ぶりにもイライラする)。

三上はもがきながらも、記者クラブをなだめるための情報がないかを探し回る。そんな中、隠蔽された64における警察の失態を知ることとなる。
64における警察の隠蔽を知り、またひき逃げ事件でも加害者の使命を隠そうとする警察の姿勢に三上は悩みを深める。自分自身の信じる正義はなにかを問い詰める。
三上は罷免覚悟で、独断の加害者実名公表に踏み切る。

その最中、少女誘拐事件が発生する。
捜査本部が組まれ、三上は情報をもらいに行く。
そこで捜査本部から渡された資料には「被害者指名 非公表」と書かれていた。


とまぁ、前編はこんな感じのストーリー。
簡単にまとめたのでちょこちょこ端折っているけども、前編はとっても面白い。記者クラブの態度は、いくらなんでもやりすぎって感じなので現実感を失うこともしばしばあったけれど。
誘拐の重苦しい空気、要所要所で美しいカメラワーク(少女が遺体で発見されるシーンなんて最高にシビれる)。
警察署内での力関係の描写もまぁまぁ面白い。
本部長(県警トップ)の、いかにも東京のキャリア組でただの腰掛で本部長やってます、ってカンジの最高に使えないキャラ付け。
警務部長と刑事部長というのが県警内ナンバー2達の位置づけ(警務部長はキャリア組のダメな奴が追い込まれるポスト、刑事部長は県警内での叩き上げポスト)。
記者クラブの傲慢な態度と、それに対して強く出られない立場の広報官たち。
誘拐事件被害者の悲哀。
それらが、まぁ多少の不自然さはありつつも視聴者側が簡単に受け入れられるように描写される。
(前述してないけど)刑事部長のポストまでキャリア組に奪われるというアクセントもあり、現刑事部長を始め刑事連中はかなり反発を強めたりもする。またオマケ程度に、主人公三上の娘が家出して夫婦が憔悴しているという要素も入る。
こういったすべての描写が、並行して適度な濃さで描かれる。

64の犯人は誰なのか?記者クラブとの確執をどうやって解消するのか?娘は見つかるのか?新たに発生した誘拐事件は、なぜ被害者の氏名が非公表なのか?64の警察不祥事および隠蔽は解消されるのか?またその隠蔽を内部告発しようとした幸田という人物はどういう行動を起こすのか?誘拐被害者遺族の雨宮はどのように心の傷を癒すのか、また思わせぶりな予告により何を起こすのか?さらには不祥事の責任を追及され鬱になり14年間引きこもりになってしまった日吉という人物はどうなるのか?県警刑事部長のポストは本当にキャリア組に奪われてしまうのか?

そういった伏線をちりばめたまま、前編は終わってしまうのである。とてもとっても続きが気になる!
まぁ前編にもツッコミどころはあった。刑事部長のポストをキャリアに奪われる!よっしゃ刑事部あげて抵抗したろ!っていうのも「子供じゃねぇんだから、そんなの通るわけねぇだろ」みたいな幼稚さだったしさ。
でも散りばめられた伏線が、どれもこれも中々に興味深くてそんな些細な(まぁ刑事部の幼稚な抵抗なんて演出上のミス程度のこと)問題なんて気にならない。
どんな続きになるんだろうか!
ありがちな陳腐な結末にだけはならないでくれよと祈りながら、一週あけて後編の公開を待った。心待ちにしたと言って良い。


そして「64」の後編である。



■後編
前述していなかったが、前編最後に発生する誘拐事件は「64」の犯行を完全に踏襲していた。
身代金要求金額2000万円、丸越デパートのスーツケースに詰めることを指定、佐藤と名乗る犯人。完全に同じ。
これは64の犯人の再来か、模倣犯の仕業か。

この誘拐事件に対して報道協定を結ぼうとするが、被害者指名を非公表としているため記者クラブ側は大反発。先のひき逃げ事件で「今後は原則実名報道とする」と約束しているにも関わらず、舌の根も乾かぬうちに非公表とは。それは反発必至である。
三上は捜査本部脇のトイレ個室に3時間こもり続け、捜査一課課長が入ってくるまで待つ。捜査一課長と直接交渉し、被害者指名を手に入れることに成功する。

ほぉ、捜査一課長気前がいいね。でもなんで匿名にしてたんだ?
警察関係者の誘拐とかなのかな?
「被害者は目崎。スポーツ店経営」
え? なんで匿名なんだっけ?

特に回収なし。
えぇー?なにそれぇ。

……まぁいいわ。
で、広報官は記者クラブに被害者情報を渡す。すわ誘拐事件発生!新聞社側も、当然全国紙面担当の中央記者が乗り込んでくる。地方面の記者は、実際のところ立場が弱いのである。
共同記者会見が行われるが、捜査本部からは刑事部長も捜査一課長も出てこないで、なんの情報も渡されていない捜査二課長が送られる。

「誘拐事件が発生しました。情報は以上です」
そりゃ記者だって怒る。俺が記者だったとしてもふざけんな、と思うだろうよ。案の定怒号の嵐。
やがて中央の記者たちは地方の記者たちを責めまくる。
「お前いままで県警とどんな関係でやってきたんだ」「警察とのやり取りの仕方も知らんのか」「これだから地方記者はつかえねぇ」「これじゃお前が東京に帰る話もしばらくは無しだな」散々な言われよう。
しかし立場の弱い地方紙面担当の瑛太は何も言い返せずに唇を噛む。

いやいや瑛太くん(一応、役名は秋山ね)。
キミ、自分の立場が強い時は散々居丈高に警察を罵倒しまくってめちゃくちゃ言ったりやったりしてたくせに、ちょっと自分の立場が弱くなると途端にダンマリ決め込んじゃうの!?おいおいただの腰抜けじゃねぇか。今まで前編から含めて2時間以上語られてきた「うるさい記者」という位置づけが、そのまんまブーメランで返ってきて「弱い者には徹底的に強いくせに、強いものにはダンマリの腰抜けクソ野郎」というキャラになってしもうた。
そんなんでいいのか!? 「警察と記者クラブの、お互いの立場が異なるがゆえの争い」というテーマはもはやそこには存在せず「いかに立場の弱いものを見つけて、居丈高に、声高に罵倒の言葉を大声でぶつけるのか」という、まぁ端的にいえば「マスゴミとはこういうものです」という描写になっているのだけども。それって映画の中で描写するテーマかい?
結果的に「集まっている記者はことごとくすべてクソ野郎です」っていう話になってしまっており、視聴者側は「記者も大変だねぇ」みたいな感想は微塵もおきない。ただただ「あぁ本意気のクソ野郎どもめ」と、ただの目障りなゴミクズども、という目で瑛太たちを見ることになる。そんなんでいいのか!?

……まぁいいわ。
実際記者ってクソだし。福知山線の「人が死んでんねんで!」に象徴されるような、立場が強ければ青天井にどこまでも居丈高になれる、なにか特権階級かなにかだと勘違いしている人間が悪目立ちしているし。

情報を何も持たされないまま記者の矢面に立たされた捜査二課長は、二度目の記者会見でまた記者たちに面罵され、そのショックで机に突っ伏して倒れてしまう。
弱い!
弱すぎる!いくらなんでも!
いや、まぁそんな細かいことはいいわ……。そんな弱い二課長のために、三上は何とか情報を仕入れようと再び捜査一課長を追いかける。
「捜査車両」とかいうのがあるらしく、三上はその捜査車両の前でずっと張り付いて待つ。捜査一課長が来ると同時に三上は飛び出して「私も広報官の職務として同乗させてください」と。捜査一課長はそれを許す。
うーん……まぁいいけどさ。いや、いいんだけどさ……。
んじゃ何のために、なんの情報も持たせずに捜査二課長を会見に派遣してるわけ?まったく意味が分からない。三上は捜査車両で手に入れた情報を、ある程度のディレイを入れつつすべて広報官に電話で伝える。
うーーーーん、なに??なんなの???警察は情報出したいの?出したくないの!?意味が本当に分からない。

誘拐事件の被害者の話に戻るけどさ。
「お願いします!娘を……娘を助けてください!」
被害者の父が、叫びに近い懇願をするわけ。
まぁそうだよね。娘を誘拐されてるんだから。
でもその時点で映画の中でも語られているんだけど「娘は二人いて、上の娘が誘拐された。17歳で素行不良。深夜に補導もされているし、学校へは全然行って無い。下の娘は12歳(だったっけ?よく覚えてない)」とのこと。
素行不良の17歳の娘が、64の犯人(もしくはその模倣犯)に誘拐された、ってのが観てる側としては違和感あってさ。うーん、わざわざ17歳の女の子誘拐するかぁ?って。だって難しいでしょ、単純に。体格もいいわけだし。抵抗されて逃げられたら、みたいなリスクもあるしさ。
その違和感ある状態で、父親の叫びを聞かされてもね、なんか「うーん」と思うよ。全然「また64が」みたいなサスペンス色出せないわけ。だったら最初からその色出さなきゃいいじゃん。監督や脚本家はアホなのかなぁって思いながらその違和感を噛みしめてた。

で、さっきの捜査車両の話ね。
64をなぞるように「市内にある『喫茶あおい』に行け」と犯人から言われるの。犯人の声は当然警察にも聞かれているんだけど、ヘリウムガスを吸って通話しているので誰だか分からない、みたいなね。そういう話ね。
で、途中でヘリウムガスが切れちゃうの。
で、ガスが切れたから、声の主が幸田だとバレてしまうのね。

はぁーーー???なにそれ?

平成14年って2002年だよ? ボイスチェンジャーとかあるでしょ? それを使わずにヘリウムガスって。
しかもものすごい用意周到に準備していたのに「ヘリウムガスが無くなっちゃった」だって。
アホなの?無理ありすぎない?

しかも。しかもだよ。
その素行不良の娘は、実は誘拐されていたんじゃなくて前日クラブで携帯電話を盗まれたんだってさ。
で、犯人はその携帯から電話をかけていたと。
幸田はつまり、その素行不良の娘が絶対に家に帰らないことも知っていたし、携帯電話を盗むためにずーーーーっと尾行してようやく盗んで、それで実行したってことでしょ。
そんだけ待って待って待って実行した犯行が「ヘリウムガスつきちゃった」だってさ。

バーッカじゃねぇの!?

……まぁいいわ。
でね、そもそもなんで幸田がそんなウソの誘拐事件を作り上げたかっていうと、実は64の真犯人がその目崎だと分かったからなのよ。
なぜ目崎だと分かったかというと、被害者である雨宮が「身代金要求の電話で聞いた声」を頼りに、電話帳に片っ端から電話をかけてついに目崎を見つけたということなの。
で、雨宮がなぜか幸田の連絡先を知っていて、幸田にだけ「犯人を見つけました」と連絡したのよ。
幸田は義憤にかられて雨宮と共謀して、そのニセ誘拐を起こそうと決意したという事なんだとさ。

まぁそこはいいよ。被害者遺族の執念で犯人を見つけた。うん、それはとても良い話だよ。幸田の連絡先を知っていたのも、まぁ事件のときに名刺を渡すなりなんなりしていたんだろう。その時に警察ではなくて、プライベートな電話番号も教えていたのだろうよ。だからそこはいい。
でもさ。
幸田と雨宮は何がしたかったの?

幸田は電話で次々に場所を指示するんだよね、64をたどるようにさ。どこそこの喫茶店とかどっかの旅館だとか、あそこの美容院とかさ。
で、指定の美容院に目崎が着いたとき、64と異なる指示をするんだよ。
「ドラム缶に2000万を入れて油を入れて燃やせ」

あ?
もうこの時点で、あんまりにもトンデモねぇ展開にラリってしまった僕は吹きだすのを堪えられなかった。
ブフッ!なんで燃やさせるの!?
2000万を失うという痛手を目崎に与えたかったということ?誘拐して殺してまで手に入れた2000万を、失う気分はどうだということか?
しかもその最終地点には雨宮が待ち構えているわけ。札束を燃やす様を遠目でしっかり見届けてね。
で、いざ燃やしたら歩み寄ろうとするんだよ。
でもさ、当然警察がその電話の会話聞いているわけだからさ。何かできるわけもないの。殺すとかそういうんじゃないんだろうね、目的がね。んじゃ全くもって何がしたかったのかわかんねぇんだけどさ。
なんで雨宮はここで待機してたんだ?って思ったら、もうラリってしまってる僕はまた吹いてしまった。

しかもしかも。今語ってなかったけど、三上の奥さん(元巡査)に対して警察は捜査協力を仰いでるの。「長い髪の女性が必要だ」っていう理由で。
で、なぜか知らないけどその美容院で奥さんは待機してるんだよ。
だって、最終地点かどうかなんて警察まったく知らないのにだよ?
美容院の客になりすました奥さんが、待合スペースで待機してる。そこに目崎の車が急ブレーキで乗り付ける!
何がおこるんだろう!

何もおきない。

はぁぁぁぁぁ???なにそれぇぇぇぇぇぇ!
ただ、奥さんはいただけ。たまたま美容院にいただけ。
ちらっと待合スペースにいたことが映った以外は、札束が燃えて目崎が警察車両に乗り込むまで何も起きない。
なんでなの!?なんで奥さん呼んだの警察は!?髪が長い女性が必要ってなんだ!?
意味がわかんねぇよ。
これも辛抱たまらず吹いてしまった。ギャグとしては中々イケてる。

で、そのあと目崎が警察にも疑われるんだけど証拠不十分で釈放されるんだ。まぁ当然だよね、何も証拠ないからさ。
でもさ、よく考えてもみて欲しいんだけど。
目崎が64の犯人なんでしょ?
で、犯人は64の手法を完全に模倣してるわけでしょう。
家に帰らない素行不良の娘がいてさ、それを「誘拐だ!」って騒ぐって事は絶対に先に「娘は預かった」的な電話が来てるはずなんだよ。それも娘の携帯から。
2000万、丸越のスーツケース、佐藤。
そして目崎が64の犯人。
そしたら目崎は「コイツ、俺が犯人だと知っている」と思うのが普通でしょ。
なんで警察に電話したの!?相当なバカなのか。
百歩譲って、奥さんが電話を受け、目崎に相談もせずにまず警察に連絡してしまったとしよう。
しかしそうなると、今度は目崎が慌てふためいている理由が分からない。
「娘を返してくれ!」とか「今度はどこに行けばいいんですか!」みたいなさ、憔悴しきった電話応対なんてさ、おかしいじゃん。
それも千歩譲って「警察が来てしまった手前、憔悴しきった父親を演じるしかない」と思ってやったとしようや。
でも、そうしたら今度は「犯人の指示に従わず、最短ルートで美容院に猛烈に飛ばした」って意味が分からない。なんでそんなボロをわざわざ出すのか。
もう百歩も千歩も譲ってるのに辻褄が合わないんだからマンボ踊るしかないよね。

さらにさらに。
目崎の次女の方が、今度は攫われるんだよ。
でも今度はさすがに目崎さん、警察に言うのはやめよう、まだ誘拐と決まったわけじゃない、と言い出す。うん、ってことはさっきの長女の方は本当の誘拐だと思ってたんだね?64の事完全に忘れてしまったドアホウですか。
しかも奥さんが目崎に相談してるし……。もうさっき色々譲ったのに無意味じゃん。
そこでも吹いたなぁ。

で、結局母親は警察に通報するんだよね。ああ、よかった、百歩譲っといてよかった。そうね、きっと長女のときも奥さんが通報しちゃったんだろうね。

まぁ目先の家の周りを報道陣が取り囲んでいる状態で、どうやって次女が家から離れたのか。またそれを略取できたのか。そういうところは全く触れられないけど、そんな些末なことはもはやどうでもいい。
とにかく、次女が連れ去られたの。いいかい?連れ去られたんだ。

その次女は、雨宮の家に行ってたんだ。
どうやって!?隣の市だけど。どうやって住所知ったの。まったく持って意味が分からない。
ただ雨宮はいなかったんだけどさ。三上がたまたま雨宮が何かしでかさないか確認するために家を訪れたタイミングだったから、三上が見つけるんだよ。次女を。
そこで「まさか三上……次女をそのまま誘拐して合田と合流なんてことしないだろうな……そしたら俺は耐えられないぞ……」ってめっちゃ心配してたんだけど、さすがにそれはなく。
ただ目先の家に電話をするんだよね。
「娘は小さな棺に入っている」
そう、犯人しか知りえない秘密、「小さな棺」=「遺体遺棄現場の車のトランク」というキーワードに目崎が反応することを期待して。
目崎はまんまとひっかかって遺体遺棄現場に行っちゃうんだけどさ。
待って待って。色々とまって。

まず「小さな棺」が、なぜ犯人しか知りえない秘密なの?
64は報道されてるんだから、どこで遺体が発見されたかぐらいニュースになってるでしょ。そんなの秘密たりえないでしょ。
次に。
なぜ目崎は「娘が誘拐されてトランクに入れられている」と信じているのか。
「ただ単に娘を誘拐して殺すだけ」って、そんな事なら七面倒くさいニセ誘拐騒動なんてやらないでしょ。それにもしかしたら復讐のために自分が殺されるかもしれないんだよ。頭つかえよ。
復讐を考える人間なんてさ、そんなの雨宮に決まってるじゃん(いや、実際は三上なんだけどさ)。

いや、まぁまぁ、確かに。娘がただ殺されるだけって可能性もないわけじゃないし。仕方ないかな、遺体遺棄現場に行っちゃうのはさ。そういうことにしよ。

で、現場にいって三上に見つかるんだよね。まぁ当然。
そんで目崎逃げる。三上は追いかける。なぜか速足で。走って逃げるわけでもなく。なるべく速足で逃げる。
結局三上につかまってさ。
三上が怒鳴るんだよ。
「事件当時、お前の娘は2歳。娘を奪われるのがどういう事かお前にも分かっていただろう!」みたいなことを。ちょっとそんな感じだったというだけで、たぶん不正確だけど。
目崎の胸倉をつかんで「なぜ殺したんだ!」と問い詰める。
目崎はこう答える。

「そんなの俺にわからねぇよ」

はぁぁぁぁ……脱力だよね、脱力。なんていうか、それまでの言葉の掛け合いとか、まーーーーったく回収する気ゼロ。
あまりのクソ問答にまたひと笑い。耐えられないよね。
そこはさ、その手前の三上の問いを生かす形で、目崎の非道な答えを視聴者は期待しているんだよ。
たとえば「俺の娘じゃないからな」とかさ。そこで観てる方も「コノヤロー!しんじまえ!」って思えるんだよ。で、三上は目崎をぶん殴るんだけどさ。視聴者も「コノヤロー!」って思っていればこそ、そのぶん殴るシーンにカタルシスがあるんだと思うのよ。
それが「わかんねぇ」だってさ。
もうさ、はぁぁーーー??? だよ。殴る気力なんて湧かないよ。

結局警察に囲まれて、目崎は逮捕(というかまぁ任意同行なんだろうけど)されるわけ。
両脇を警察に捕まれて連れていかれる目崎。
そこに、三上が保護していた次女が現れる。
それを見て目崎が叫ぶ。

「見るなぁーー!!!」

ブフッ! なんだそりゃ! 何の感情の発露だ!
そしてそれを見てしまった次女

「キャァーーーーー!!!!」

ブブブフッ! だめだやめてくれ、耐えられない! 畳みかけないで!
こっちは映画館で、30分以上笑い転げるのを我慢して我慢して、ハンカチを口にあててなんとか堪えてるんだから。
その叫びはなに!? 何にそんなに恐怖しているの? もう訳がわからなすぎて、もうラリラリですよ。

そしてその現場にいた瑛太が、三上が目崎を殴るのを目撃して記事にするわけ。
で、署内で再び三上と瑛太(ていうか秋山)が出会うの。
申し訳なさそうな瑛太。そして三上がそれを見つけて
「秋山、お前は記者としてするべきことをしたんだ」
と、お山の頂上あたりからの上から目線。
なんだそりゃー。でも、もはやここまでの怒涛のギャグ連発の前では多少かすんでしまって、ちょっとプッと吹く程度。

なぜか三上の直属上司でもなんでもない仲村トオルがやってきて
「お前は県警を変えた」
はぁ?? 三上がなにかしたか??
「俺は上と刺し違えてでも、お前を残す」
えぇ!? なに? なんでお前が突然そんな近寄ってくるの? だったらもっと手前の段階で、三上と協力しあえばよかったのでは??
もう何がなんだかわかんねぇよ。
仲村トオルが何か一言いうたびに、おかしさがこみ上げてきてプッ、プッ、プッって吹きっぱなし。

いやー、でもこの時俺は一番恐怖したのは、仲村トオルがまさか「お前を刑事課に戻す」って言いださないかどうかだけ。それだけが心配だった。もしそれ言われてたら吹くとかそういうレベルじゃなく、間違いなく映画館でアッハハ!って声あげて笑っちゃってた。それは言わなかったから本当によかった。

そのあとの意味不明な記者クラブでの係長の神妙な顔つきと「では私が記者発表します」みたいな、あの余計な尺(基本ギャグ映画なので、うまい間の取り方)が結構よくて、そこも結構我慢が必要だった。
榮倉奈々がカギかけて「係長、お願いします」なんていう棒読みシーンは最高にキてた。

で、刑事部長ですよ。
刑事部長が64の不祥事隠蔽のことを語るんだよ。
「代々の刑事部長申し送り事項(これは不祥事隠蔽のこと)も、俺の代で終わり……か」

ブーッ! なんだそのセリフ。いや、これ単品でもし出てきたなら笑いなんておきなかったかもしれない。でも今までの流れがとっても良くてギャグギャグギャグ、と連発してきてからの、この「終わり……か」でもう吹いちゃう。
なんだそりゃ、と。もう少しマトモなシメかたできんのか。キャリア組にポストを結局奪われるんだろうね、たぶんね。
だったらさ、例えば新刑事部長がテレビの会見で「~~な事態がありました。それを公表せずにいたことは誠に遺憾であり……」みたいなシーンを入れつつの、刑事部長が机を片づけるシーン入れるとかさ。
まぁ前編のキレイな絵作りはどこへやら、とにかく雑。絵作りなんかどうでもよくて、駆け足で映像つぎはぎしてなんとか形にしただけ。そしてクソ脚本。
もうこらえられないよ、笑いを。

しかしね、ここでとっておきの最後のギャグが出ますよ。
ここまで4時間かけてあっため続けた、珠玉のヤツが。

さっき前編で残された伏線、いろいろと列挙しましたね? そこに書いたけど、まだ残されている物があるんです。
後編に入ってから、一秒たりとも描写されていない伏線が。

目崎逮捕のニュースが流れるんですけども。
そのニュースをラジオで聞いた、14年間引きこもりであった日吉が部屋から出てきて一言。

「かぁさん……」

ブファーッッ! 耐えられるわけがねぇ!!
こんな4時間溜め続けたギャグ! 渾身のギャグ!
14年間引きこもりだったヤツが、逮捕のニュースを聞いて出てくるだってぇ!? そんなバカみたいなストーリーがあってたまるか! それも後編で一秒たりとも語られていないのに、突然現れて

「かぁさん……」

そんなバカなぁ!! そんなの現代で許されるのか!! もう捧腹絶倒。とてもじゃないが笑わずにいることは不可能。

そしてその渾身のギャグは余韻を残しながら、後日談的な無駄尺に入る。
もう三上夫婦のアップが映るだけで笑える。
今までのギャグの数々を思いだしてしまう。特に奥さん。

なんで呼ばれたのか……。そして娘の話は何も進展がないまま後編2時間経ってしまったということに対して、この無駄尺の存在意義を考えてしまう自分。
「まさか……いや、いくらなんでも……でもここまでのギャグの数々を見たら有り得る……」
最後のシーンで、特に脈略なく娘が帰ってくるんじゃないか。
それだけを恐れた。
もはや面白すぎて恐怖である。
ずっと頭の中では「まさか、まさか、まさか……」と鳴り響いていた。

そして三上の顔がアップになる!
何かに気付いて追いかける!
まさか!

雨宮である。
はぁ、よかった……。娘だったら笑って席からズリ落ちてたかもしれない。

まぁあとは雨宮はようやく昭和64年から抜け出し、娘の遺品を燃やして過去と決別できた、的な表現がされてスタッフロールである。
いや、最後にちょろっとギャグがあって、三上家の電話がピロピロピロ、って鳴るというシーンが10秒ほど流れてスタッフロールなんだけど。まぁそれも面白かったけど、やっぱ最後のシメだけあってそこまで爆笑というわけではなく。
しかしここまで面白い映画だと、エンドロールの小田和正の歌までもがおもしろく思えてしまう。
小田和正が流れ始めた瞬間、「はい、これで終わりです」と言われた気がして思いっきりブーッと吹いてしまった。

おそらく語りつくせていない気がする。他にも数々のギャグが散りばめられていた。


まぁとにもかくにも、21世紀の邦画では最高のギャグオンパレードで後半の勢いは素晴らしかった。こんなにもナンセンスなギャグが連発できるというのは、やはり笑いのツボを相当心得ている監督なんだろう。
とにかく、もう二度と映画を作ってほしくないものである。

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