2016/06/27

映画「日本で一番悪い奴ら」を観る

はい、あまりに映画「64」がクソすぎたので、口直しに面白そうな映画を観ようと探してたんですけども、そんな中ハズレのなさそうな映画ってことで「日本で一番悪い奴ら」を観ました。
あんまり無いと思うけど、やっぱりネタバレは含まれます。

ほし:★★★★★(5.0)
寸評:簡単に言うと、新人の刑事がいかにして悪徳刑事になっていくかを描く映画。
その要約だと「あー、いかにもありそうな、重たい汚い映画ね」なんて印象を受けそうだが、まったく重くない。むしろライトな演出で、笑えるシーンがたくさん盛り込まれている。
重たい描写で社会を斬る!みたいな映画でもなく、かといってジョークを連発したコメディというわけでもない。描写したいテーマは、ストーリー全体で筋が通っており、とっても観やすい良作。
主人公の諸星刑事については、ありがちな「悪に目覚める」のようなダース・ベイダー的な展開ではなく、「必要悪と割り切って利用できるものはなんでもする」であるとか「少しでも優秀な成績を残したい」であるとか、そういったごくごく一般的(そこら辺のサラリーマンでも同じような心境で働いているだろう)な人間としての行動から、徐々にボタンの掛け違えが発生する無理のない展開。これもまったくストレスなく諸星に共感・感情移入することができる。
清濁併せ呑みつつ一度頂点を極めた人間が、いかにしてヘコんでいくのかという悲しさがこの映画の根源的なテーマで、「ヒトラー最期の12日間」を観て人というものはかくも悲しい生き物なのかと感じられた人にうってつけの作品。





観終わった時に、思わず天を仰ぐ。
やるせないストーリー展開。決して主役の諸星が大悪党だったわけではない。
正義感に溢れた新人時代。警察組織に忠誠を誓い、やる気に満ち溢れていた若者。
正義感に溢れた顔の新人時代諸星


いつ、ボタンを掛け違えてしまったのだろう。
何か特別に間違った事をしたわけではない。ただ、職務に忠実だっただけ。少しでも周りに認めて欲しかっただけ。
成績を上げない人間は、組織の中でハブられていく。刑事とは、そういう仕事の世界だと映画の中では描かれる(この映画を観た刑事OBはかなり現実に近いというコメントを残しているので、現実にもまぁそういう世界なんだろう)。

映画を観終わった時には、そんな寂寞の念やら、(主人公への自己投影による)悔悟の念やら、そういった物で胸が詰まる。
この映画が描いている本質は、そこにあると思う。人間の弱さ。
自己顕示欲、自己承認欲求、名誉欲。
「みんなやってる事だから」と、罪が消えてなくなるわけではないのに必要悪として悪行に手を染めてしまう集団心理。
組織的に悪事に手を染める警察を舞台としているが、その腐った舞台の上でも人間は生き、そして人間としての弱さに負けて崩壊していく。そんな悲しさがこの映画ではキレイに描かれている。

最初は純真な青年だった諸星は、先輩刑事から「自分を周囲に認めさせるには、成績をあげるしかない」という生き方を教わる。その先輩は犯罪検挙のために各種組織にスパイ( S と呼ばれる)を持っていた。
たとえばヤクザに S がいて、銃器の検挙に役立てる。ヤクの売人に S がいるから覚醒剤の検挙に役立てる。
当然タダで協力してくれるわけではない。相手に便宜を図るからこそ、成り立つ関係だ。ヤクザと飲みに行ったり、捜査情報を流したり。癒着といえば癒着でしょう。でも映画内でもサラリーマン風の係長がにこやかに語る。
「まともに捜査なんてしてたら、チャカなんてあがりませんからねぇ(ニコニコ)」

だから諸星は、いや、だから北海道警察は組織的に癒着を黙認し、摘発成績をあげることを是とした。


ヤクザにお願いして銃を出してもらう

そんなこんなで諸星は清濁併せ呑むことで、道警内でも「エース」と呼ばれるような存在にのし上がる。
しかし「銃を購入して、その銃を摘発する」のような無理な捜査がたたって、諸星は借金にまみれるようになる。資金がなければ銃もあがらない。そこで資金を得るためにさらなるレベルの高い悪行に手を染めていく……といったストーリー展開を見せる。
ちょっとだけ、ちょっとだけ……と、徐々に悪行のレベルが高まっていく展開は軽妙で、テンポよく、視聴者側も特にひっかかるところもなく「そうなるかぁ……なるよなぁ……」と思ってしまう。実にいい脚本。

新人時代とはガラっと変わって、完全に "ソッチ" に染まってしまった諸星さん


展開としては、冒頭でも書いたようにそこから諸星の立場はどんどん悪くなっていく。失った評価を取り返すために、大きなヤマを片づけようとしてそこに付け込まれてさらに悪化していく……。警察と関係なく、どんな仕事をしている人間にでも当てはまるような「焦り」が、自分に置き換えて体感できてしまうような描写。演出も実にいい。

人間の弱み、組織の腐敗していく理由、そういったものを実にうまく描写されていて全く飽きもこない。構成も素晴らしい。
どうしても難点を上げろというのであれば、ちょっとアップの画作りが多いかなぁ。すこし表情で語らせようというシーンが多い。でも諸星が破滅に向かっていく途中などは表情で語らせるのが効果的に働いているシーンもあり、必ずしもマイナスというだけではないけどね。

時代考証もしっかりしているし、細部までこだわった画作りをしようとしているんだなぁ、ステキだなぁ、立派だなぁと観ている側が思ってしまう。90年代の車のエンジンを切るときに、しっかりと一回大きく空ぶかしをしてから切るアクションが入ったりして「ほほぉー、ちゃんとしてるねぇ」なんて思った。

まぁ上述のとおりですね、脚本も演出もすんばらしいですよ。とってもいい映画。
「64」を作ったクソ監督に、この監督のツメの垢でも煎じて飲ませてあげたい。「64」の監督が、小説に書いてある部分を書いてある通りに映像を作ることはできて、でも創造する部分が壊滅的というのとは大違い「日本で一番悪い奴ら」を観た後では、もうもはや「64」のは「監督」なんていう呼び名はしたくないね。塗り絵。塗り絵職人。

テンポよくストーリーをぽんぽんぽーんと進めていく過程で、コミカルな演出が必要になることもある。
そんなとき、しっかりと笑えるジョークとして適度な時間で細かいセクションを作れる。実に観ている方の気分がよくなる。

諸星「おい、お前これ盗難車じゃないのか?」
パキスタン人「ウン!トウナンシャ!」

こんなコミカルな掛け合いがぽぽぽーんと連続で差し込まれて、観ている方は笑ってしまう。そういうのがいくつかリズムよく入ることで、観ている方は単純にコミカルで笑っているだけでいいが、それが「だいたいこういうワルいことをしてます」という説明も兼ねている。説明の入れ方、尺の取り方、実に絶妙で本当によく分かってる監督だなぁと思える。

まぁこのパキスタン人とかハルシオンをバカ食いしてる男とか、結構間の抜けたキャラクターなんだけど、しっかりとストーリーの脇を固める助演として機能する。うん、愛着もわくし、好きになるね、この人達。

パキスタン人とハルシオンばか食い男


「物語はこの辺で一区切りです」みたいなのを観客にアピールする手段として、ところどころで「記念写真を撮る」というアクションが入るけど、それ自体は「そんなことするわけねぇじゃん!」みたいな事。
たとえば「検挙成績を上げるためにパキスタン人の身内を犯人ということにして出所させる」というシーンで、「記念写真とろう!ほら、笑顔笑顔!」っていいつつ、諸星とパキスタン人のツーショット写真を警察署の目の前で撮る。
いくらなんでもそんなわけないじゃん、というシーンなのだけど、ただの演出上の区切りだ。文句いうのがおかしい。なぜ不愉快にならないかというと、たとえば「そこで不用意に撮影した写真を元に弱みを握られる」といったような事がおきないから。
物語上のファクターとしてまったく無視されるべきツーショット写真なので、観ている方もただのジョークとしてすんなり受け入れられる。これが物語に絡んでしまうと、途端にクソ映画になっていってしまうだろう。「そんなわけねぇじゃん」というファクターの上になりたったストーリー展開は、そのすべてが「そんなわけねぇ」ってことになってしまうからね。

これ以外にも、警察側が不正に非常に寛容になっていくというのもコミカルで軽妙にテンポよく語られる。
道警の次長を絡めた銃器取締課内のやりとりなんてのは、コントとして単純に楽しく仕上がっている。「踊る大捜査線」のあの3バカのやり取りのような、単純なギャグにはとどまらず、警察腐敗のストーリーを描きつつのコントだからつくりのうまさも際立つ。

諸星 「んじゃ関東のヤクザに頼んで銃いくらか出してもらいますか」
次長 「……え、ヤクザに頼むの?」
課長 「でも関東もんに出しゃばられるのもなぁ」
諸星 「ならいっそ、ロシアに直接行って買ってきちゃうのもアリっすね」
係長 「ロシアなら、だいたい一丁 2 万から 3 万ぐらいで購入できると思いますよ」
次長 「……え、買ってくるの?」

みたいなやり取りなんてのは、劇場でもかなりウケてた。みんな声だして笑っていたよ。
映画ってのは、こういうことよな。な?分かるか?「64」つくった塗り絵職人よぉ。映画ってのは、こういうリズム、テンポ、脚本、画作りがすべて高いレベルで要求されるもんなんだよ。わかるか?

というわけで、今世紀最高の邦画と言えるこの「日本で一番悪い奴ら」。
文句なしにオススメできます。みなさんもお時間があるときは、まずこの映画を観てから「64」のクソ監督にツバを吐きかけてください。

2 件のコメント :

  1. これは64に比べてしっかりとした演出、伏線も拾われてい観ててワクワクしました。(64も前編はワクワクしたのですが…)
    ピエール瀧さんの演技とかも良くって、どんどん引き込まれましたし、その時の主人公の感情などを含んだ演出の濡場など考えて作ってあるなーって思いましたし、マルサの女とかの伊丹監督チックな酸いも甘いも見せてくるような感じが個人的に好きなので面白かったですー!

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    1. ピエール瀧はいいですねー。見ていて自然な悪いカンジがとても良かったです。
      というかどの役者も大体良かったですね。

      この映画の監督は伊丹十三作品好きなんだと思います。伊丹作品と同じような作りこみがされているような気がして、とても今後に期待しちゃう監督ですね。

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